すいもあまいも

即売会参加レポブログになりつつある

読者だって作者に良い影響を与えられる、ということ

ティアズマガジン106にサークル《2娘》の乙女サバさんのインタビュー記事が掲載されている。同人誌『花と砂糖と君が好き』シリーズの紹介を兼ねたもので、記事には乙女さんの言葉としてこう書かれている。

P&R掲載を機に「チャンスを逃したらだめだ」と参加の度に新刊を発表、二月に最終回を迎えた。一巻刊行時「みんなにスルーされるはずと確信していた」ことを全く想像させない意欲だ。

この言葉を読んで私は嬉しくなった。一巻のP&Rを投稿し、そして採用されたのは、他ならぬ私だからだ。

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創作同人誌即売会COMITIAのカタログであるティアズマガジンには『Push&Review』、通称「P&R」というコーナーがある。これはCOMITIAにて発表された同人誌の感想を読者から募り、そのいくつかを掲載するコーナーだ。私はCOMITIA83から数えてかれこれ6年間、P&Rを投稿している。

『花と砂糖と君が好き』一巻が発表されたのは2011年8月のCOMITIA97だ。それ以前の乙女さんは、不思議ちゃん牛っ娘ギャグ『まきばのミルク』や、学生日常シュールギャグ『あっそーれ』シリーズなど、主としてギャグ漫画を描かれていたように思う。そういった印象を持っていた私は『花と~』のシリアスさに衝撃を受けた。この作品の素晴らしさは書き留めておかなければならない。キーボードを打ち、136文字のP&Rをしたためて投稿したところ、COMITIA98のティアズマガジンに掲載された。

愛想笑いの日々を過ごすお菓子好きの少女は誰にも流されないクラスメイトに憧れる。少女の不安定な自己同一性が、クラスメイトと分け合ったお菓子を食べる瞬間に一気に解消される様が感動的。クラスメイトが触れる手に、そして少女の涙に、他者から承認された安心感がひしひしと伝わってくる。

ティアズマガジン Push&Review全コメント (COMITIA98)

――今読み返しても、硬い。小難しい言葉を多用している。そして優しくない。未読の人に対して作品の雰囲気が伝わっているか怪しいものだ。しかし、これが私のスタイルなのだ。曲げられない信念がここにあるのだ。

少しだけ自分語りをさせてほしい。同人誌に限らず、私が作品のレビューを書く最大の理由は、その作品を正しく理解したいからだ。この作品は面白い、この作品に感動した、と自分自身が感じた、その訳を掴みたいからだ。だから必然的に、私のレビューの最大の読者は自分自身になる。他の読者ではなく、また作者でもない。もちろん、作品の面白さを他の読者と共有したい、あるいは作品の感動を作者に伝えたい、という欲望があることは認めよう。しかし、そういった欲望が先行して、レビューが媚びたりおもねたものになってしまうことを、私は絶対によしとしない。我ながら面倒な人間だと思う。

そんな人間が書いたレビューでも、結果的に作者に良い影響を与えられている、ということに、私はひどく救われた気持ちになる。自分自身のためのアウトプットが、ティアズマガジンという「描き手と読み手をつなぐコミュニケーションメディア」に掲載されることによって、他ならぬ作者の力となることができるのだ。ここにおいて、私は私自身のスタイルが肯定されたことを感じずにはいられない。自分自身のために読み、そして書く読者だって、作者に良い影響を与えられるのだ。少なくとも、私はそう信じている。

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『花と砂糖と君が好き』シリーズの最終巻についても、私はP&Rを投稿している。私の他に二人の方が投稿していたが、運良く私の投稿がティアズマガジンに採用された。

シリーズ最終巻は笑顔の裏に悩みを隠す少女・夏の物語。心の中で暴れる負の感情にもがく夏がシリーズ主人公・左右の言葉に心和らいでいく姿に、安らぎを覚え、希望を見出す。「きっと誰かが気づいてくれる」というメッセージを確固たる強度で描き切った作者に敬服。

ティアズマガジン Push&Review全コメント (COMITIA104)

「きっと誰かが気づいてくれる」とは最終巻作中の言葉である。この言葉は作品を描き、その感想を書くという行為にも言えることだろう。描く、あるいは書くという行為は、想いを綴った手紙を小瓶に入れて海に流すようなものだ。誰かからの返事があるかどうかはもちろん、そもそも「誰か」に届くかどうかさえ分からない。互いに届き合うことなど、もはや奇跡と言ってもいいだろう。私は――自惚れかもしれないが――作者にとっての「誰か」が私で、私にとっての「誰か」が作者であったという奇跡に感謝したい。そして、その奇跡を起こしてくれたCOMITIAという場、ならびにティアズマガジンという場にも感謝したい。

読者だって作者に良い影響を与えられる。そう信じて、私はこれからも作品を読み、そして作品について書いていこうと思う。