すいもあまいも

即売会参加レポブログになりつつある

COMITIA103終了後に投稿したPush&Review

『テテノタケ ―コイノタビ―』《ameneco》

キノコの森に住む小人・テテに野原から飛んできた手紙。森の外の世界と送り主の男の子に憧れたテテは野原を目指す旅に出る。色とりどりの大きなキノコで彩られたメルヘンあふれる世界観が可愛いらしい。フチなしで丁寧に作られた表紙の装丁も美しい、素敵な豆絵本である。

『ABMIX』《ABXXX》

過去五作品と描き下ろしを収録した総集編。並んだタイトルに現れた音楽的・ゲーム的な遊び心に誘われて読み始めれば、心揺さぶるヒューマンドラマの数々に唸ることしきり。人間同士の分かり合えなさと、それでも分かり合おうとする姿が沁みる、作者の里程標的作品集である。

『それは想いのカケラ』《Caramel Crunch》☆

白ヤギの想いがこもった手紙を読む前に食べてしまう黒ヤギ。それは「手紙に残った想いのかけらがおいしい」から。食べる、という行為により際立つ、物でも言葉でもない、想いとしての手紙。そしてそれを本能的に求める心。メルヘンたっぷりに描かれる恋心に胸がときめく。

『がんばるなつきの受験状況』《CANCER.O2》

高校受験まで二週間を切ったなつき。憧れの男子と同じ高校に通いたくて、彼女は今日も必死で勉強する。誘惑に負けそうな彼女を厳しく、そしてピリピリする彼女を優しく支える家族の温かさが沁みる。高揚と不安が入り混じった受験時期が思い出されて懐かしくも胸が詰まる。

『葵神社の神様』《サブマリンサンドイッチ》

母を生き返らせてほしいと願う少女。それを見守る神は死者の国から彼女の母を連れ出す。かつて見た光景を少女に重ねる神と、母に言えなかった言葉がある少女、それぞれが過去を解消する様が切なくも優しい。ままならぬことを受け入れて未来へ向かう姿に静かな強さを見る。

『Whirlpool 4』《STUDIO Whirlpool》

十年以上ぶりのシリーズ新作。内容は読み切りの動物キャラ漫画やエッセイ漫画なので初見でも安心。おなじみの犬をパクンと食べてしまう餃子のお話は、その奇妙な光景に同居するほのぼのした雰囲気と、餃子の物言わぬキャラのシュールさが、どこかメルヘンチックで楽しい。

『カンバスのいろ』《空色光冠》

美術部の先輩後輩カップル・美宇と根津の続編。穏やかな日々の中でふいにトラウマが蘇ってしまう美宇をひしと抱きとめる根津。触れ合う肌に安心感を覚える美宇からあふれる「好き」の言葉と気持ちに胸が高鳴る。お互いを大切に思う二人の姿が優しく温かい恋物語である。

『Gute Besserung!』《Disharmony》

ドイツ語で「お大事に!」というタイトルのお薬擬人化本。天使のように優しいロキソニンちゃんや胃が弱いムコスタくんなど、お薬の効能が性格に現れた擬人化キャラたちがコミカルで可愛らしい。薬袋を模した紙袋にカプセル型のペーパーと、遊び心に満ちたおまけも楽しい。

『地獄の看板持ちバイト』《テクノストレス》

地獄の入口で案内看板を持ち、行く者や戻る者と言葉を交わす少女の話、他三編を収録。死の理由、友人への恋心、自傷した腕。思春期特有の後ろめたい行為や感情が読み手の心を痛々しく揺さぶり、それらを完全には解消できない登場人物たちに怪しい後味が残る作品集である。

『We Love C!』《ドスワンポスとゆかいなTV》

バレンタインに女の子が男の子に渡す「C」と言えば――カレー!? そんなストーリー二編を収録。チョコの代わりに、色も形も似ているカレーによって彩られる、どこかズレたバレンタイン模様が軽妙で可笑しい。可愛らしい絵柄と相まって、微笑ましくも楽しいラブコメだ。

『花と砂糖と君が好き(6)』《2娘》☆

シリーズ最終巻は笑顔の裏に悩みを隠す少女・夏の物語。心の中で暴れる負の感情にもがく夏がシリーズ主人公・左右の言葉に心和らいでいく姿に、安らぎを覚え、そして希望を見出す。「きっと誰かが気づいてくれる」というメッセージを確固たる強度で描き切った作者に敬服。

『きみにあいに。』《花苺》

転校した彼から別れ話を持ちかけられた彼女。距離も心も離れていく彼を、彼女は追いかけて会いに行く。気持ちをかわされることの辛さ、そして素直な気持ちが通じ合った喜びに胸が締め付けられる。Hシーンで余裕ゼロの彼氏の姿も含め、二人の初々しい恋模様に心温まる。

『雄プレイ』《ブラック・クラッシャー》

あの輸送機がついにこのサークルの餌食に! 尻穴たる後部ランプでまぐわい、凧ひもで緊縛プレイされて墜ちる鉄の機体。その性的な光景の異様さもさることながら、現実世界と創作世界の妙味ある対応付けに唸る。非擬人化作品を支える擬人化的想像力が光る作品である。

『お布団さん恋のキューピット大作戦』《マヌライフ》

マンション一階の女の子布団に恋した二階の男の子布団。彼女とお近づきになりたくて、彼は持ち主同士を引き合わせようとする。あの手この手を講じる男の子布団が表情豊かで可愛らしい。そして、策が裏目に出て大失敗かと思いきや大逆転、という展開が可笑しくも心温まる。

『なぜわたしは『記号のペシミズム』の続編を描かないのか』《ルート十二面体》

作者自身による標題作品の解説本。元作品の軽妙な印象とは対照的な、学術論文のように硬い文章と論理展開。その仰々しさが持つ力強さに否応なく引き込まれ、また元作品の批評性を批評的に記述する様式に刺激的な快楽を覚える。批評性と娯楽性が高度に融合した一冊である。