すいもあまいも

即売会参加レポブログになりつつある

ティアズマガジン Push&Review の書き方

 この記事は筆者が2013年5月に発行した同人誌『ポテ姉とP&Rの書き方』に収録した『Push&Reviewの書き方』に若干の加筆・修正を加えたものです。昨日開催された『よつばの。読書会11』で刺激を受け、公開することにしました。

1. はじめに

 「Push&Review」(以下「P&R」と記します)とは、創作作品の同人誌即売会COMITIA」のカタログ『ティアズマガジン』中のコミュニケーションコーナーであり、COMITIAで発表された本に対して参加者から寄せられた感想を紹介していくものです。筆者はCOMITIA83(2008年2月開催)からほぼ毎回、P&Rに感想文を投稿しています。最初は片手で数えられるくらいの作品数でしたが、近年は「1開催あたり10作品を投稿する」という自主的な目標を立てて投稿しています。それでもCOMITIA会場で出会う面白い本はそれ以上に多く、また開催終了から〆切までの期間が約10日と短いこともあり、全ての面白い本について投稿できないこともしばしばです。

 COMITIA参加者がなぜ、どのようにP&Rを書くのかは参加者それぞれだと考えます。しかし、筆者は寡聞にして、P&R投稿者の投稿者としての語りを聞いたことがありません。同人誌の内容について語ることは楽しい営みだと考えます。それと合わせて、筆者はそのような営みそれ自体についても同好の士たちと語らいたいと思っています。本稿はそういった語らいの呼び水として、「なぜ」と「どのように」の二つの観点から、筆者のP&R投稿を語りたいと思います。

2. 「なぜ」書くのか

 筆者は、「自分が読んだ素敵な同人誌を他のCOMITIA参加者と共有したい」という理由以上に、「自分が読んだ同人誌を正しく理解したい」という理由からP&Rを書いています。このスタンスはそもそも、私自身の「作品の面白さは全て理屈で説明できる」という信念に基づいています。また、私は「書きながら理解する」タイプの人間であり、P&Rはまさに書くという手段としてうってつけということもあります。

 とはいえ、P&Rは他の参加者にとっては読み物です。書き上がったものがあまりにも独りよがりであることは避けたいです。書くことにより私自身が作品を理解することができ、かつ他の参加者が読み物として楽しめるようなものを目指して、私はP&Rを以下の三要素で構成しています。

  1. 概要 …… 作品の登場人物やあらすじを紹介します。自身および読み手の思考の焦点を絞り、続く解説の理解を助けます。
  2. 解説 …… 作品の理解内容を書きます。メインパートです。読み手を多少振り切ってでも、自身の理解を丁寧に書きます。
  3. 結び …… 作品の面白さをひとことでまとめます。振り切った読者を呼び戻しつつ、作品理解の集大成を共有します。

 以上の三要素で構成することにより、私が書くP&Rは結果として「私の作品理解を他の参加者と共有するもの」になります。過去、このようにして書いたP&Rが採用されて喜びを感じていることを鑑みるに、私にはこの方法が性に合っているのだと思います。

3. 「どのように」書くのか

 ここではサークル《羊図書館》の同人誌『法律擬人化入門(上三法編)*1を例に、P&R執筆の様子をメイキングのように記してみます。少々長いですが、お付き合いください。

 何はなくともパソコンのテキストエディタを開きます。まず、P&Rの掲載形式である17桁・8行に合わせて、目印となる17桁を全角数字で書きます。また、P&R本文の先頭に付加される「●」記号と、末尾に付加される都道府県名およびペンネームも書いておきます。

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●(大阪府・あまいも)

 ここからは同人誌を傍らに置き、それを繰り返し読みつつ、感想文を書きながら考えていきます。大抵の場合、まずは概要を書いてみることにしています。また、17桁に合わせて改行することによって、掲載時の見栄えも確認しつつ進めていきます。以下、本文の更新箇所を強調表示します。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。(大阪府・あまいも)

 概要はひとまずこれでよさそうと判断して、解説を書いていきます。パッと文章で書ければいいのですが、今回はまず「解説で何を言いたいか?」をメモ書きします。

  • 専門用語が入っているけれど分かりやすく読める
  • 法律解説のバランス感、両論併記的
  • 擬人化の上手さ(容姿、言動、関係性)

 メモ書きを元に、各要素を一文で書いてみます。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。専門用語を織り交ぜつ
つもコミカルに進む日常。中庸な法律
解説。そして各法律のイメージを容姿、
言動、関係性に巧みに落とし込んだ擬
人化。大阪府・あまいも)

 だいたいよさそうです。さて、この辺りで、自分の意図が正しく伝わる言葉を使っているかどうかを、辞書サイトを使いながら確認していきます。

「織り交ぜる」で正しく伝わるか
weblio辞書によれば「ある物事の中に別のものを入れ込む」とのことです。今回は漫画の中に専門用語を入れ込んでいることが通じればいいので、大丈夫だと判断しました。
「イメージ」で正しく伝わるか
法律の施行日や内容なども擬人化に盛り込まれていますので、「特徴」という言葉も使った方がいいと判断しました。また、カタカナ語でなく漢語で意図が正しく伝わる場合は漢語を使おう、という自身のポリシーに基づき、「イメージ」は「印象」にします。
「落とし込む」で正しく伝わるか
weblio辞書によれば「発想やアイデアや構想などを、具合的なフローや資料、または工程や手順などに適用すること」とのことです。自分の意図と近く、悪くは無さそうです。しかし、念のためにweblio類語辞典も調べてみたら「約束や説得(しばしば間違ってまたは大袈裟な言葉で)を通じて人に何かを誘発する」というネガティブな意味もあるようです。そこで、別の言葉に置き換えようと判断しました。ここでは単純に「描く」を使うことにしました。

 確認と修正の結果、次のようになりました。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。専門用語を織り交ぜつ
つもコミカルに進む日常。中庸な法律
解説。そして各法律の印象と特徴を容
姿、言動、関係性巧みに描いた擬人
化。(大阪府・あまいも)

 ここから、肉づけのための確認をしていきます。

「中庸な法律解説」だけだと伝わりにくい
いくつかの視点が入っているという点がこの同人誌のポイントだと考えました。「多様な視点」と書き表してみましょうか。いや、「視点」よりもいい言葉があるかもしれません。weblio類語辞書で「視点」の類義語を調べてみると、どうも「視座」という単語の方が私の意図に近い感じです。こちらの言葉を使ってみましょう。

 さっそく肉づけしてみます。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。専門用語を織り交ぜつ
つもコミカルに進む日常。多様な視座
からの中庸な法律解説。そして各法律
の印象と特徴を容姿、言動、関係性で
巧みに描いた擬人化。
(大阪府・あまいも)

 ここで文章全体を確認してみると、全ての文が体言止めになっていることに気づきます。これでは文章に品格がありません。どこかに体言止めではない文を入れたいところです。文章構成の分かれ目である概要と解説の間に文を入れるのがよさそうです。さて、どんな内容の文を入れましょうか? 後ろの三文だけ見ると「要はどういうことなのか?」が分かりづらいので、結論を先に述べてしまいましょう。「バランス」という言葉がしっくりきます。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。一言で言えばバランス
の妙が光る作品だろう。専門用語を織
り交ぜつつもコミカルに進む日常。多
様な視座からの中庸な法律解説。そし
て各法律の印象と特徴を容姿、言動、
関係性で巧みに描いた擬人化。
(大阪府・あまいも)

 再び文章全体を確認します。ここで私は「日常」という単語にひっかかります。私は4コマ漫画の解説で「日常」という言葉はよく使ってしまいがちなのですが、この文章で使うには唐突な感じが否めません。今回は単純に「4コマ」の方が伝わると考えました。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。一言で言えばバランス
の妙が光る作品だろう。専門用語を織
り交ぜつつもコミカルに進む4コマ。
多様な視座からの中庸な法律解説。そ
して各法律の印象と特徴を容姿、言動、
関係性で巧みに描いた擬人化。
(大阪府・あまいも)

 やはり文章全体を再確認します。だいたいこんなものかな、と判断して結びに移ります。今のところ、最後の三文が全て体言止めなので、結びは体言止めではない方がいいでしょう。また、結論は既に述べてしまっているので、別のことを書いて結ぶ必要があります。ふと、同人誌の表紙にあるタイトルに目が行きます。そして、タイトル中の「法律」「擬人化」という言葉は、体言止め三文の中にも登場していることに気づきます(当たり前と言えば当たり前ですが……)。そのことを書いて結んでみることにします。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。一言で言えばバランス
の妙が光る作品だろう。専門用語を織
り交ぜつつもコミカルに進む4コマ。
多様な視座からの中庸な法律解説。そ
して各法律の印象と特徴を容姿、言動、
関係性で巧みに描いた擬人化。タイト
ルの期待を裏切らない面白さである。大阪府・あまいも)

 これでひと通り書けました。ただ、都道府県名とペンネームを入れると9行になってしまっています。本文最後の行は17桁まで埋まっているため、都道府県名とペンネームを含めて8行に収めるには、本文を10文字削る必要があります。それはちょっとキツいので、本文は8行に収まっているからまあいいやと考え、今回は全体で9行にします。とはいえ、17桁×8行ギチギチだと文字幅などの影響で本文掲載時に9行になってしまう可能性もあります。そこで、本文から1~3文字程度削ることを試みます。本文全体を眺めて、「中庸な」はちょっと言い過ぎかもしれないと考えました。ここを削ります。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。一言で言えばバランス
の妙が光る作品だろう。専門用語を織
り交ぜつつもコミカルに進む4コマ。
多様な視座からの法律解説。そして各
法律の印象と特徴を容姿、言動、関係
性で巧みに描いた擬人化。タイトルの
期待を裏切らない面白さである。
(大阪府・あまいも)

 これで完成……としたかったのですが、まだ納得できません。声に出して読むと最後の二文で違和感を覚えます。やはり三文連続の体言止めがよろしくないのではないか? と考えました。そこで、文意はなるべく変えずに、言葉を補いつつ、体言止めを使わない文に書き換えてみます。合わせて、結論を文章の後ろに移動させます。

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●憲法民法、刑法を中心とした法律
擬人化4コマ。専門用語を織り交ぜつ
つもコミカルな4コマが可笑しく、多
様な視座からの法律解説はためになる。
法律の印象と特徴を容姿、言動、関係
性で描く擬人化も巧い。バランスの妙
が生んだ、タイトルの期待を裏切らな
い作品である。(大阪府・あまいも)

 大改造になりましたが、都道府県名とペンネームを含めて、禁則処理も考慮して8行に収まりました。しかも声に出して読んでも文章全体として納得がいくものになりました。これで完成とします。「●」記号、改行、都道府県名、およびペンネームを削除して、COMITIAウェブサイトのP&R投稿フォームにコピペします。あとは名前、本のタイトル、サークル名などの必要事項を入力して投稿するだけです。投稿したP&Rを後から振り返られるように、投稿確認画面を自分のパソコンに保存することも忘れてはいけません。

4. おわりに

 同人誌を読むという営みは楽しいものです。そして、同人誌について語らい、共有し、交流するという営みは、それにも増した楽しさがあると考えます。P&Rはまさにそういった営みとしてCOMITIA参加者をつないでいるのだと思います。また、P&Rでスペースを訪れる参加者が増えた、P&Rで創作活動を勇気づけられた、といった声をサークル参加者から頂くこともたまにあります。いかに作品理解が第一義の私でも、こういった声を頂くことは、やはり嬉しいものです。

 COMITIA104のティアズマガジン巻頭には、主催・中村公彦さんのこのような言葉があります。「作品(バトン)を受け取って、読者は何を返すか。私はその答えに正解はないと思います。いや、逆に言うなら読者の数だけ答えがあると言うべきでしょうか。」――私は「返す」行為として、今後もP&Rを書いていこうと思います。そしてこの稿をここまで読んでくれたあなた! あなたも、P&R、書いてみませんか?

*1:実際に投稿されたP&R文はこちら